雲(クラウド)の向こう、は約束された場所?

McKinsey社が4月に発表したレポート、"Clearing the air on cloud computing"ってのを拾ったので、読んでみたらなかなか面白かったって話。
このレポート自体は、流行りの「クラウド(コンピューティング)」について、
・そもそもクラウドって何なんじゃい
・中小ビジネスは兎も角、大企業への導入は特にコスト面でそれほどお得じゃないよ (むしろ仮想化のポテンシャルが大きいよ)
みたいなことが書いてあって、言葉自体がバズワード化しつつある現状に「そんなにクラウドってお得で便利でいいものなの?」と問うようなcounter-intuitiveな内容になってます


B2Bにおけるクラウドコンピューティングの将来性については、不勉強ゆえにあまりコメントできるとこがないのだけど、これがコンシューマ向けのサービス*1にどんな意味合いをもつのかを、ちょっとだけ考えてみたので忘れないように書いときます

CloudとCloud serviceの違いは?

レポートでは、まずクラウドの要件を以下のように定義。

(1) ハードウェア管理が(導入側からみて)高度に抽象化されている
 Hardware management is highly abstracted from the buyer
(2) 導入時のインフラコストは(初期投資ではなく、利用量に応じた)可変費用として請求される
 Buyers incur infrastructure costs as variable OPEX
(3) インフラのキャパシティは柔軟な拡張・縮小が可能
 Infrastructure capacity is highly elastic (up or down)

クラウド」は上記の(1)-(3)全てがあてはまるけど、「クラウド・サービス」では(2)は必須ではなく(1)と(3)のみを要件とする、らしい。*2この辺は簡潔かつ十分で納得感のある定義なんじゃないかな

サービスがクラウド化すると何が嬉しい?

レポートでは、上記の定義から「クラウド」の方の特徴に言及してるんだけど、他方で「クラウド・サービス」の側のベネフィットにはどんなものがあるんだろうか。ぱっと思いついたのは次の4つ(網羅的ではないかも)


[1] セットアップ・メンテナンスの手間が圧倒的に少ない
個人的な例だけど、僕がBecky!を捨ててGmailに移行した理由は、これが大きい。*3特にローカルアプリの代替として考えた場合、自前でチューニングしたいPCオタク的な一部の人は兎も角として大多数のユーザにとっては「深く考えずに簡単・便利に使える」ことは結構なバリューになるんじゃないかな。
Gmailの他にも、例えばPicasaを使えば複雑な画像編集・管理ソフトを使わずに直感的に画像の管理ができる、とかね(あと、タダだしw)


これは単にアプリ自体のインターフェースの優秀さというよりは、「サービスが向こう側にあることによるメリット」だと言えると思う。ウィザードがいくら発達してもローカルアプリでは「こちら側」でやらなきゃいけない作業がそれなりに発生するし、特に環境の入れ替え(PC切り替え・OS再インスコ等)なんかしようものなら大騒ぎですよ(逆に言うと、面倒でも「いじり倒したい人」にはあんまり向いてないのかも、しれないけど)


[2] (取り敢えず)安心で安定してる
SOA99.99%、とかいうレベルじゃないんですけど、少なくとも個人レベルで見た場合、ハードウェア関連のトラブルから実質的に解放される、というのは大きなメリットでしょう。
まあ、どこぞのBlogやSNSみたいに、データ消えたまま復旧しなかったりすぐに撤退しちゃったりってリスクは常に伴うので、それなりの自衛手段は必要なんだけど、平時のサービスレベルはそれなりに満足いくレベルに達しているんじゃないかな。
自宅でRAID組んだりWHS入れたり、って人々じゃなければ、手軽に安心・安定が手に入るというのは、それなりに嬉しいことだと思う


[3] どこでも使える
データがお空の向こうにあるということは、どこからでも手を伸ばしてゲットできる、ってことだよね。
出先の携帯からでも、会社のPCからでも、([2]とも関連するんだけど)自宅のPCが壊れたって、同じデータにアクセスできる、というのも嬉しい。ネット回線とブラウザさえあれば、PCでもMacでもケータイでもアドエスでもiPhoneでも好きな時に好きな方法で使えちゃう


[4] ユーザ相互のコミュニケーション・コラボレーションの場として機能する
実はB2Bといちばん大きく異なるのが、ここ。
コンシューマ向けの「クラウド・サービス」の場合は、おなじプラットフォームを共有するユーザと「つながって」「共に楽しむ」ことができるっていう話。他方、「クラウド・コンピューティング」では他のユーザと同じプラットフォームを共有したからといって、基本的にutilizationの効率化以上の効果は生まれない


例えば、Gmailにはchat機能があってなかなかこれが便利だったり、はてブflickerみたいに個人での利用以上に、知の集積(による盛り上がり)やユーザ相互の交流に主眼を置いたサービスもある。
これは前に書いたように、データがオープン化して集積することにより、新しい価値の創造を促進する仕組みだ。チラシの裏の落書きも、100万人分集まるとそれなりに意味のある情報になったりするんですよ、みたいな…w

とまあ、真新しい発見は特にないんですけど、クラウド、って言ったときにそれが何を指すのかは割と曖昧で、PaaS的なものなのか、それともSMB向けのSaaSなのか、はたまたGmailPicasaみたいなコンシューマ向けのライトなアプリ・サービスなのか、ともすると一緒くたに語られがちな現状なので、こうした理解はアタマの整理に役立つ、かも、と思ってみた。
個人的な興味の軸足は、勿論「クラウド・サービス」の未来にあるんですよ、ね…


関連記事
The data in the Sky with... オープンソースとクラウドコンピューティング雑感。

*1:レポートでは、EC2やAzuraのような「クラウド(コンピューティング)」とSalsforce.comやGmailのような「クラウド・サービス」を明確に区別してます。後述

*2:じゃあ順番変えて(2)を三番目にしろよ、とか思ったんだけど、やんごとなき事情でもあるのかしら

*3:スパムのフィルタリングが異様に優秀、というのもあるんだけど